空港の案内放送やジムのテレビ、劇場の解説。音は出ているのに、自分のイヤホンでは聴けない場面があります。Auracast(オーラキャスト)は、その壁をなくすためのBluetoothの機能です。1台の送信機が、電波の届く範囲にある対応機器へ同じ音声を届けます。ただし、使えるのは対応する送信機がある施設や、Auracastに対応した機器がそろっている場合だけです。
結論を先に書くと、Auracastを使うために確認するのは次の5点です。
- 送信側(スマホ・テレビ・施設の設備)がAuracastに対応しているか
- 受信側(イヤホン・ヘッドホン・補聴器)がAuracastに対応しているか
- 放送を探して選ぶためのアシスタント(スマホの設定や専用アプリ)が使えるか
- 聴きたい放送が公開放送か、コードが必要な暗号化放送か
- 対応機種でも、ファームウェアの更新が必要な場合があるか
この5点がそろわなければ使えません。Bluetoothのバージョン番号だけで対応を判断することもできません。順に見ていきます。
Auracastとは
Auracastは、Bluetooth LE Audioを基盤とする放送型の音声配信機能です。規格を定めるBluetooth SIGが、仕様と使い方を公式に案内しています。
従来のBluetoothオーディオとAuracastの違いは、接続の形にあります。
| 項目 | 従来のBluetoothオーディオ | Auracast |
|---|---|---|
| 接続の形 | 送信機と受信機を1対1でペアリングする | 1台の送信機から、範囲内の対応機器へ同じ音声を届ける |
| 受信できる台数 | ペアリングした機器に限られる | 範囲内であれば台数に規格上の上限はない |
| 参加のしかた | 機器同士のペアリングが必要 | 放送を選ぶ形で参加する(公開放送はペアリングなし) |
| 帯域と音質 | 受信機が増えると接続が増える | 送信機は1つの信号を送るだけで、受信機が増えても帯域は増えない |
送信機は、受信機が何台つながっているかを把握しません。ラジオの放送と同じ考え方です。受信機が増えたからといって、音質が落ちる仕組みでもありません。
放送の探し方は、Wi-Fiのネットワークを探す操作に似ています。スマホなどのアシスタントが周囲の放送を一覧表示し、聴きたい放送を選びます。QRコードを読み取って参加する方式もあります。
Auracastでできること3つ
Auracastの使い方は、大きく次の3つです。
1. 自分の音声を周りの人と共有する
スマホで再生している音楽や動画の音声を、近くにいる人の対応イヤホンへ届けます。2人で同じ動画を見るとき、片方だけが音を聴く状態から解放されます。共有する側が放送を始め、聴く側が放送を選ぶ形です。公開放送のほかに、コードを共有した相手だけが聴ける暗号化放送も使えます。
2. 公共の場所の音声を自分のイヤホンで聴く
テレビの音声がミュートになっている場所や、案内放送が聴き取りにくい場所で、自分のイヤホンへ音声を届けます。劇場や大学、教会、博物館、スタジアムなど、すでに放送が導入されている施設があると公式の案内にあります。施設側の送信機が前提になるため、対応施設かどうかは場所ごとに確認が必要です。
3. 聴こえを助ける
対応する補聴器や人工内耳などの聴覚機器へ、直接音声を届けます。残響の大きい部屋や、話し声が聴き取りにくい会場でも、自分の機器で音声を受け取れます。従来の補聴設備と置き換えるのではなく、選べる手段が増える形です。
対応の見分け方
Auracast対応かどうかは、Bluetoothのバージョン番号だけでは決まりません。対応にはBluetooth 5.2で導入された機能と、LE Audioの仕様の中のPublic Broadcast Profile(公開放送プロファイル)への対応が必要です。
購入前や手持ちの機器の確認では、次の表の順にチェックします。
| 確認ポイント | どこで確認するか | 注意点 |
|---|---|---|
| Auracast対応の明記 | メーカーの製品ページや仕様表 | 「Bluetooth 5.2以上」だけでは対応とは限らない |
| 送信・受信のどちらか | 製品ページの機能説明 | 送信だけ対応、受信だけ対応の機種がある |
| ファームウェアの条件 | 製品ページの注記やアプリの案内 | 更新で対応する機種がある |
| アシスタントの有無 | スマホの設定画面や専用アプリ | 放送を選ぶ操作はアシスタント側で行う |
| 対応するOS・バージョン | スマホメーカーのサポート案内 | 機種とソフトウェアの組み合わせで変わる |
具体例として、One UI 6.1〜8.0の対応Galaxyでは、設定→接続→Bluetooth→その他のオプションで「Broadcast sound using Auracast」を選び、自分の音声の放送を始められます。放送名とパスワードは変更でき、聴く側はパスワードを入力して参加します。なお、GalaxyではOne UI 8.5から機能名が「Audio Broadcast」に変わっています。One UI 6.1から8.0ではAuracastの名称です。設定画面の文言はバージョンで変わるため、手持ちの端末の表示で確認してください。
イヤホン側の例では、ゼンハイザーのMOMENTUM True Wireless 4がBluetooth 5.4対応で、Auracastへの対応をうたっています。ただし、Auracastはファームウェアの更新でのみ利用できると公式ページの注記にあります。買った時点のままでは使えない場合がある点が、見分け方の落とし穴です。
「Bluetooth 5.4」や「Bluetooth 6」といった数字は、対応の目安にはなりますが、Auracast対応の証明ではありません。製品ページに「Auracast対応」または「Auracast受信対応」と明記されているか、注記にファームウェア更新の条件があるかも、買う前に確認してください。
日本で使うときの注意点
日本向けの付加価値として、日本で使う場合の現実的な注意点を整理します。
- 施設側の対応が前提です。自分のイヤホンが対応していても、空港やジム、劇場の側に送信機がなければ聴けません。日本でも、劇場の解説を自分の対応イヤホンで聴ける仕組みがあります。行く先の施設が対応しているかは、事前に施設の案内で確認してください。
- 公開放送と暗号化放送の区別があります。公開放送は範囲内の対応機器が参加できます。暗号化放送は、放送側が共有したコードが必要です。コードを教えてもらえない放送は聴けません。
- 既存のテレビは後付けの送信機で対応できる場合があります。テレビ等の送信側機器は、多くがハードウェアの更新を必要としますが、後付けの送信機で対応を加える方法もあります。テレビ本体の買い替えが必須とは限りません。
- 既存の機器が更新で対応するとは限りません。仕様上は現場での更新が可能でも、更新するかどうかは機器メーカーの方針次第です。対応予定の有無は、メーカーの案内で確認してください。
- 対応機種の情報は流動的です。対応製品の検索ページが公式に用意されていますが、掲載状況は変わります。購入直前に、メーカーの製品ページと公式の対応製品検索で二重に確認するのが確実です。
よくある質問
今使っているイヤホンで聴けますか?
対応機器でなければ聴けません。Bluetoothのバージョンが新しくても、Auracastへの対応が別途必要です。製品ページにAuracast対応の明記があるかを確認してください。更新で対応する機種もあります。
ペアリングは不要ですか?
公開放送への参加には、従来の1対1のペアリングは不要です。アシスタントで放送を選ぶ操作で参加します。暗号化放送ではコードが必要です。自分のスマホから放送を共有する場合は、放送の開始操作と、聴く側の参加操作の両方が必要です。
受信機が増えると音が悪くなりますか?
受信機が増えても帯域は増えず、音質が落ちる仕組みではありません。送信機は1つの信号を送るだけで、受信機の台数を把握しません。ただし、電波の届く範囲から出れば聴けなくなります。
テレビの音声を自分のイヤホンで聴けますか?
テレビ側がAuracastの送信に対応している場合、または後付けの送信機を使える場合に可能です。テレビ本体の対応状況と、受信側のイヤホンの対応の両方を確認してください。施設や店舗のテレビでは、放送の有無が場所ごとに違います。
補聴器でも使えますか?
Auracast対応の補聴器や聴覚機器であれば、対応する放送を受信できます。施設の放送が公開放送か暗号化放送か、自分の機器の受信方法は、施設と機器メーカーの案内で確認してください。
まとめ
Auracastは、音声を「1人で聴くもの」から「範囲内で共有するもの」に変える機能です。使い方は、自分の音声の共有、公共の場所の音声の受信、聴こえの支援の3つです。
買うときの判断はシンプルです。送信側と受信側の両方にAuracast対応の明記があるか、ファームウェア更新の条件がないか、アシスタントで放送を選べるか。この3点を確認すれば、バージョン番号だけに惑わされずに済みます。施設側の対応が広がるかどうかはこれからの動きですが、対応機器を持っている人ほど、施設の放送が始まったときにすぐ使える状態になります。
※本記事は2026年10月時点の情報で記載しています。
出典・参考
- Bluetooth SIG公式(日本語)「オーラキャスト」: https://www.bluetooth.com/ja-jp/auracast/
- Bluetooth SIG公式「Auracast - FAQ」(対応に必要なBluetooth 5.2の機能とPublic Broadcast Profile、受信台数の上限なし、既存機器の更新可否、後付け送信機、導入施設の例): https://www.bluetooth.com/auracast/faq/
- Samsung公式サポート「Broadcast audio from your Galaxy phone」(One UI 6.1〜8.0での対応、One UI 8.5からのAudio Broadcastへの名称変更、放送の開始手順とパスワード、Galaxy Buds3 Proの受信例): https://www.samsung.com/us/support/answer/ANS10001042/
- ゼンハイザー公式(日本語)「MOMENTUM True Wireless 4」(Bluetooth 5.4、Auracast対応、ファームウェア更新でのみ利用可能の注記): https://jp.sennheiser-hearing.com/products/momentum-true-wireless-4
- 劇場のAuracast対応解説システムの発表(日本での施設側の事例として): https://release.nikkei.co.jp/attach/708439/01_202606151130.pdf
- 画像出典: AV Watch「着実に進化する”Auracast”を万博で取材」(Auri受信機): https://av.watch.impress.co.jp/docs/topic/2042485.html / AuraHear(Galaxyの放送画面): https://aurahear.com/2025/12/samsung-one-ui-8-5-beta-auracast/ / What Hi-Fi?(JBLのAuracast対応イヤホン): https://www.whathifi.com/features/i-went-ears-on-with-auracast-an-exciting-bluetooth-feature-set-to-revolutionise-audio-sharing